心臓は血液を全身と肺に循環させるポンプ機能を果たす重要な臓器です。
その心臓に異常をきたす猫の病気として、最も一般的なものが『肥大型心筋症』です。

▷どんな病気???
肥大型心筋症は心筋が厚くなることで、心室が十分に拡張することができなくなり、十分な血液を全身に送ることができない状態になり様々な症状を発症していきます。
▷どんな症状???
初期症状はほとんどありません。重症度や進行速度には個体差がありますが、進行するにつれ、元気がない(疲れやすい)、たまに咳をする、痩せてきた、などの症状がみられるようになります。さらに進行すると、肺や胸に水がたまり、呼吸がしにくくなります。
また、心臓内に血栓ができやすくなり、身体の細い血管に詰まると強い痛みや麻痺、呼吸困難などを起こし急変します。突然死のリスクもとても高い病気です。
しかし…
猫の心臓病の場合、心筋症であっても約18%で心雑音が聴取されなかったという報告があります。
人や犬の心臓病では心雑音が早期から聴取されることが多く心臓病に気づくことができるのですが、猫の心臓病では症状が重症化しない限り気づかれにくい、早期には病気に気づかずに過ごしている可能性があるということです。
▷好発年齢や品種は???
以前は中高齢以降の病気と言われていましたが、近年のデータでは診断時の好発年齢は約5.5歳ですが、診断される猫の年齢には4か月~16歳と大きな幅があり、若齢猫ちゃんも要注意です。
メインクーンやラグドール、アメリカンショートヘアのなどの純血種において遺伝的要因の可能性が示唆されていますが、実際には多様な猫種で認められます。
▷診断するには???
・身体検査
体重の変化や、聴診で心雑音、リズム不整の有無を確認します。
・心臓超音波検査
心臓エコー図検査では、心臓の構造や機能をリアルタイムで把握することができ、心筋の厚みや心臓の拡張機能、弁や血流の異常、
血栓ができ始めていないかなど、心臓の内部構造をしっかりみることができます。
肥大型心筋症の早期発見に欠かせない検査です。
・レントゲン検査
心臓の大きさ、肺や気管、血管の状態などがわかります。
・血圧測定
全身性の高血圧により心筋の肥大が認められることがある為、鑑別診断としても行います。
・血液検査
心臓以外の臓器に異常が無いかを確認するために行います。
高齢猫でよく見られる、甲状腺機能亢進症は心筋を肥大させる要因にもなるため、甲状腺検査も同時に行う事を勧めます。
また心臓マーカーを測ることで、心臓病の早期発見や病態把握に役立ちます。
▷心臓マーカーって何???
《N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)が心筋症の検出に有効とされています》
・心筋症や心不全の際に心室筋からの産生が亢進し、血液中に放出される。
(今、異常があるかどうか判定できる指標)
・肥大型心筋症の猫の80%以上で上昇
・心雑音などの症状がない場合も検出が可能(早期発見に適している)
・病気の進行と共に上昇 (病態の把握にも有用)
▷どのタイミングで検査すればいいの???
《心筋症は、通常の定期健診では判明しにくいので、特化した検査を定期的に受けることが大切です》
好発品種の猫では12ヶ月齢から、それ以外の品種の猫では4歳齢から、心臓の定期検診をお勧めします。
麻酔などの強いストレスがかかると、急性悪化することもあるため、全身麻酔をかける際には術前検査の1つとして実施できると理想的です。
▷猫ちゃんは病院が苦手???
心筋症の確定には超音波検査が最も有用ですが、そのためには、少なくとも数分間、横に寝て動かずにいてもらう必要があります。
じっとするのが苦手なネコちゃんには難しいかもしれません。
心雑音などの症状がない子は、まずは血液検査で心筋の状態をチェックし、もしも高値を示した場合に超音波検査を受けることをお勧めします。

肥大型心筋症の治療法は?
残念ながら、肥大型心筋症を完治させる治療方法はありません。
循環不全によって肺に水が溜まっている場合には利尿剤を、血栓症のリスクが高い場合には血栓を予防するような薬を用いるなど、内科的な対症療法が中心となります。アメリカ獣医内科学会が2020年に発表したガイドラインに基づき治療もしくは経過観察を検討します。
病院に行くと興奮してしまって、きちんと検査を受けられるか心配…
家ではとてもおとなしく穏和な子でも、病院に来ると緊張してしまう、攻撃的になってしまう猫ちゃんはたくさんいます。
室内飼いの猫ちゃんたちは自分の縄張りから出ること、他の猫と行動範囲が被ること、聞き慣れない音がする事などにとても敏感だからです。
猫ちゃんの緊張を解く方法として、自宅にて来院前に抗不安薬を飲んでもらうことをお勧めしています。
麻酔薬ではありませんので、完全に意識がなくなるわけではありません。個体差はありますが、来院1.5−2時間前に飲んでいただくことで、緊張が緩和されます。
特に心臓病の猫ちゃんは、興奮や緊張が時に命に関わる事態へと発展してしまうこともあり、できるだけリラックスした状態で診察や検査を実施することによって結果的に、ストレスのかかる時間も短時間になり、正確な検査を実施することが可能になります。

ネコちゃんの心臓病は早期発見が困難であり、しかし発症すると生活の質を著しく低下させ、生死に直結する重大な病気です。
疲れやすい、痩せてきたなどに気づかれた場合は、お早めにご相談ください。
定期的な健康診断をおすすめします!
*当院では期間限定(2025年10月〜11月末)で「秋の健康診断」を実施しています。
幅広い臓器の血液検査項目に加え、心臓マーカーの「NT-proBNP」はもちろん、
早期腎臓マーカーの「SDMA」をお得な料金で測定することが可能です。
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